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民法第262条の3 所在等不明共有者の持分の譲渡の実務対応について

民法第262条の3による「所在等不明共有者持分譲渡権限付与」の「申立」及びその「登記」を行い完了したので、司法書士向けに情報共有をしたいと思う。

弊所の事案では、依頼者の祖父名義になっていた土地において、遺産分割協議がなされず、相続人の中の1名が昭和50年代に渡米し、その後行方不明で音信も取れず、不動産を処分することができなくて困っていたという事案を「所在等不明共有者持分譲渡権限付与」を受けた上で、売却した案件であった。

なお、法定相続による相続や、譲渡の結果、当該土地の共有者が依頼者と所在不明者の2名の登記名義となった状態にした上で、権限付与の申立てに進んだ。

取組期間は、相談から業務完了まで、およそ1年ほどの時間を要した。

 

本手続きは2021年改正により新設された制度であり、文献等も少ない中での取組であった、無事に完了し、非常に依頼者にも喜ばれ、司法書士冥利に尽きる仕事ができたため、他の同業の皆様にも積極的に取り組んでいただく価値があるものと思い、当方の手続き内容を共有する。(なお、当職と面識のない方からの直接の質問等は、対応できかねるのでご遠慮願いたい)

 

まず、根拠となる条文の確認。

第262条の3
  1. 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
  2. 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
  3. 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
  4. 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

 

【権限付与について】

裁判所の申立の書類作成については、各文献等で確認できるかと思うので、割愛。

ちなみに、事件としては「令和6年(チ)第●号 所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与の裁判申立事件」となる。

決定の内容としては

「本件につき、当裁判所は、その申立てを相当と認め、共有者X(所在等不明の者)のために、●●万●●円を名古屋法局に供託(令和6年度金●●●号)させて、次のとおり決定する。」

主文

1 申立人に、本裁判の確定後2か月以内に、共有者X以外の共有者全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、別紙物件目録記載の不動産の共有持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する。

2 手続き費用は、各自の負担とする。

となる。

判決により債務名義を取得したときのように「XはYに対し、持分移転登記手続きをせよ」のような記載はないので、注意。

また、確定証明書も必要になりますので、忘れずに対応すること。

 

【登記申請書について】

目的:共有者全員持分全部移転

(登記研究913P44「A、B及びCの各自の持分移転の登記の申請が別々にされることも容認される。」と記載がある。)

(A,Bは共有者、Cは所在不明共有者)→持分移転それぞれ申請可能→当然共有者全員持分全部移転も可能)

原因:年月日売買(移転の時期の特約がある→代金全額受領日)

義務者:共有者  →「(申請人)Y」「登記識別情報の提供の有無 有」

所在不明者→「X」

(登記識別情報の提供の有無の記載自体が不要→通達で不要としているため)

(当然、事前通知の手続きも要しない)

添付情報:

・登記識別情報(共有者Y分のみ入力)

・登記原因証明情報(①~③PDF 全て原本還付)

→①登記原因証明情報

(停止条件が成就(売買)したことの記載と移転の時期の特約の記載 共有者Y署名押印)

※①は代理権限証書にもなるので、原本還付して、原本は代理権限証書に添付。

+②裁判書謄本

+③確定証明書

(供託正本は裁判所謄本に供託した旨の記載があるので添付しない)

・代理権限証書(※①~③が代理権限証書になると通達に記載あり)(②、③は原本還付)

→①登記原因証明情報

(停止条件が成就(売買)したことの記載と移転の時期の特約の記載 共有者Y署名押印)

+②裁判書謄本

+③確定証明書

+④登記権利者委任状

+⑤登記義務者委任状共有者としてと所在不明共有者代理人として2通添付)

→登記研究913P43「裁判には、当該裁判の請求をした共有者Aに所在等不明共有者Cの持分を特定の者Xに譲渡したことに基づく持分全部移転の登記を申請する代理権を付与する効力もあるものと解される。したがって、当該裁判に基づく当該持分全部の移転の登記の申請については、所在等不明共有者Cが登記義務者となり、請求をした共有者あその代理人として当該申請を行うこととなる。」と記載あり、よって所在不明共有者Cの代理人として登記申請の委任をした委任状を添付。

・印鑑登録証明書 共有者Y様分のみ1枚(三か月以内)

・登録免許税:課税標準価格は不動産全て

 

【登記原因証明情報について】

法務局の根拠となる資料等は以下の4点

・法務省民二第533号通達

・登記研究 913号41~41ページ記載

・村松茂樹 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地 国庫帰属制度 KINZAI

・登記官のチェックポイント 新日本法規(現在作成中?)

 

  • 登記原因証明情報は4つのポイントの記載が必要

1.裁判により所在等不明共有者の持分譲渡権限を有する共有者が、これに基づいて所在等不明共有者の持分の譲渡行為をすること

→これは裁判書きに記載あるのでこれでOK

→登記原因証明情報に裁判書謄本+確定証明書を添付する

2.所在等不明者以外の共有者全員が、各自の有する持分の全部の譲渡行為をすること

→所在不明者以外の共有者であるYが売却しているのでOK

3.1,2の相手方が同一の者であること

→当方の事案では、買主が法人1名であった

4.裁判(決定)の効力発生日(確定日)後、2ヶ月以内に1,2の譲渡の効力が生ずること

→年月日売却の日付が確定日(確定証明書)から2ヶ月以内と確認できればOK

※所有権の移転の時期の特約もOK

(裁判(終局決定)は、所在等不明共有者から即時抗告が提起されないまま、申立人(送達受取人)が決定を受領した日の翌日から2週間が経過すると確定する。)

→但し、この期間は裁判所において伸長することができる。(改正非訟手続法88条3項)

 

【報酬について】

なお、同職においては、報酬設定についても悩ましいところになると考えられる。

手続き自体にそれなりに時間を要することと、依頼者への説明や報告の工数がかかること、確認作業は非常に多かった(当方の場合は、行方不明者が渡米していたこともあり、外務省への確認調査も行った)ことからすると、当方としては、「(一般的な相続報酬+不動産売買の決済報酬)×3~5倍程度」の金額が妥当な業務量で、かつ難易度であると感じた。これらは不動産価格や、持分割合により供託することになる金員なども鑑みて、依頼者にしっかりとした説明をした上で、検討することが大切であると考える。

 

 

上記は、当方の検討や文献調査、裁判所・法務局の聞き取りや照会をもとに行った手続きではあるが、これが全て正解とは考えていない。

ただ、上記内容で無事登記完了まで到達していますので、参考にして頂ければ幸いである。

 

 

司法書士の社会貢献としてできる業務であり、また、解決できる社会課題であると考えるので、多くの同業者に是非前向きに取り組んで欲しいし、当方は取り組んでいくつもりである。

なお、裁判所・法務局の職員のみなさんは知見の提供やご助力を惜しまず、非常に快く対応してくださり、感謝に堪えない。

末筆ながら、お礼申し上げたい。

 

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