もうこんな思いはしたくない。
金曜日の昼に、余命宣告をされたので、早急に遺言を作成したいとの連絡を受け、
公証役場に連絡しました。
御家族を介して、その日の夜に、内容と財産について打合せを完了しました。
印鑑証明書・戸籍等の書類もその日のうちに手配でき、遺言内容の起案も済ませ、
公証人の先生も全面協力してくださるとのことで、
遠方の出張も快く引き受けて下さり、月曜にでも公正証書遺言の作成ができる状況にまでセッティングしました。
本人さんが金曜は薬でお休みになっている(午後19時くらい)とのことで、
自筆証書の準備も行い、その説明もしたのですが、
土曜の昼に、
「先ほど、逝ってしまいました、、、」とのご連絡を受けてしまいました。
遺言書は完成できませんでした。
司法書士として、法律実務家として、頼ってもらいながら、達成できなかった無力感に襲われます。
この体験は僕の司法書士人生2度目です。
前回は、少しイレギュラーな内容の遺言であったため、戸籍等の書類集め、
聞き取り(遺留分等で一緒に思案していた)に時間をとられ、
本人様がとても元気に冗談も言っていたので、(僕も依頼者も)焦っておらず、
しかしながら、依頼後一週間前後で亡くなられてしまい、こちらも自筆証書すら作れなかったことがあります。
通常、公正証書の遺言作成は2週間程度のお時間を頂いております。
しかしながら、僕は上記体験から、1週間以内、可能であれば3日以内、もっと言えば、自筆証書であれば、
不可能でなければ即日に作成するお手伝いをしています。
御家族におかれましては、病気で辛い依頼者に対し、遺言書の作成を督促することなどできず、
本当にギリギリになるまで、実際に動けない方がほとんどです。
ただ、僕の経験で、遺言書を作成して、その依頼者を不幸にしたことはありません。
「親にそんなこといえない!」ということであれば、当職が代わりに説明に伺います。
「財産処分をどうすればいい?兄弟でしこりが残るようなのは困るから、決めておいてもらないか?専門家を呼ぶから説明を聞いてもらえないか?」の提案くらいなら言えないでしょうか?
本人が遺言書を書きたくないのに書かせることなんかはしません。
ただ、機会があることは、本人にお伝えしないと、お互いの遠慮が空回りします。
気まずいことと思われるかも知れませんが、
むしろ(相続分をもらう御家族ではなく!)作成した依頼者本人に、必ず感謝の言葉を頂けています。
周りや家族が言いにくいし、
病気を治して欲しい、少しでも長生きして欲しいという家族に
「もう長くないから、遺言書を書きたい。専門家を手配してくれ」
と、なかなか言い出せなかったという方が非常に多いと感じています。
また、言ったとしても「そんな弱気なこというんじゃない!」と家族もそう言ってしまいます。
遺言は遺書ではありません。
依頼者本人さんの財産処分行為の一種です。
(生きることを諦めた)死亡を予期した最後の手紙ではありません。
遺言を書く方は、残される家族を思い、紛争やその火種を残したいとは思っていません。
遺言書があれば避けられる負担は、大きいです。場合によっては、計り知れません。
もうこんな経験はしたくありません。
また、こんな経験をさせたくありません。
もちろん、逆のパターンもあります。
作成後3日後、1週間後になくなられたケースです。
人の死は避けられないものですが、残された方の気持ち的な負担の差は歴然としています。
遺言作成に最速で動けること。
僕が司法書士として、やれるだけのことをやり続けられるよう、
責任を持って業務に当たりたいと思います。